茶碗蒸しとマイナスイオン〜前編〜
からどうぞ
冷たい雨に福袋星人が濡れないように、コートのボタンをいつもより一つ上までとめて、ボクらはいつものように散歩に出かけた。
天気予報によると、その日はこの冬一番の寒さだそうだ。確かに寒い。少し歩いただけで爪先がじんじんしてくる。
福袋星人が小さなダンボールを見つけたのはそんな日で、
中には子猫が3匹いて、
雨はいつの間にかみぞれに変わっていて、
中の子猫たちは、ズブ濡れの躰を寄せあって鳴きもせずに震えていた。
いつからこうしているのだろう?
わからないけど、このままではそう長くないのはわかる。
ボクが箱ごと持ち上げようとすると水分を含んで脆くなったダンボールは、重さなどほとんどないような子猫の体重であっけなく底が抜けた。子猫たちは驚いて、震える脚で必死に逃げようとした。
すぐに3匹とも捕まえられたけど、二つの手では、すぐに1匹が手の中から逃げだしてしまう。
何度捕まえても、咬みもせず、ヒッカキもせず、泣くことさえせずに、ただ逃げようとした。もう、鳴く力は残ってないのかもしれない。
いったい、どこに逃げる気なんだ。どこに行ったってこのままじゃ。
必死で逃げだす子猫を何度も捕まえた。頼むから大人しくしてくれ。でないと。
それでも子猫はどこかへ逃げだしていく。
手のひらで水を掬うように、何度も何度もこぼれ落ちそうな命を掬った。
「私の中に入れて運びましょう」
「何言ってんだ。こんなにびしょ濡れの子猫なんか入れたらやぶけちゃうぞ」
「私の中にTシャツがあります。それでくるめば大丈夫でしょう」
そう言うと福袋星人は袋の口を止めてあるシールを一息に破いた。持ち手を硬直させて、痛みに耐えながら、福袋星人は口を開けてボクに中身を取り出すように促した。
中には札束とTシャツが入っていた。
ボクは札束をポケットに押し込み、未だ暴れる子猫をTシャツにくるんでそのまま福袋星人の中に入れた。
ボクは福袋星人を抱えて家へ走った。途中一度躓いたような気がしたけど、そんなことはどうでもいい。とにかく走った。その間福袋星人に向かって喋り続けた。
「もうすぐだから」
「大丈夫だからさ、帰ってドライヤーで一発だよ。だからさ、午後にはまた映画を観よう。昨日言ってた君オススメのあれ、なんてタイトルだっけ?あれが観たいな。レンタルあるかな」
ボクはいつもの話をいつもの調子で話し続けた。その間、福袋星人は一言も声を上げなかった。
家に辿り着いたボクはびしょ濡れになったTシャツを福袋星人から取り出し、中の子猫をバスタオルで包んでストーブの前に置いてから、福袋星人にドライヤーをかけた。
福袋星人はまだなにも喋らない。
ボクは祈るような想いで福袋星人にドライヤーの温風をあて続けた。
ドライヤーは無機質にぶおーと風とマイナスイオンを吐き出し続けた。
福袋星人はまだなにも喋らない。
どれ位の時間が経ったろうか。
子猫たちが体温を取り戻して、鳴き声を上げ始めた。その声はまだか細い声だけど、命の暖かさを感じる音だった。
福袋星人はまだなにも喋らない。
子猫たちは毛がすっかり乾くころには随分元気になっていた。ミルクを与えると喉を鳴らして勢い良く舐めた。
福袋星人が声を上げた。
「猫は無事みたいですね。よかった」
「大丈夫か?」
「今は辛くはありません。ですが、私達は封を切った時点でそう長くは生きられません」
「じゃあ、あのときにはもう・・・」
「はい。でも、ドライヤー有難うございます。あなたに当ててもらうこの風がなによりも心地よかったです」
「待ってくれ、勝浦氏なら助けられるんじゃないか?連絡先は知らないのか?」
「知っているかもしれません。でも、もう間に合わないでしょう。どちらにしてももういいのです。私は福袋だけど、もっと人間と同じように生活して人間のように笑ったり、泣いたり、喜んだりしたかった。でも後悔はしてません。あなたとの生活は本当に笑いと喜びに満ちた生活でした。それはあなたが私を福袋としてではなく、一人の人間として扱ってくれたから。だから、だからこそ私は、袋としての本分を果たそうと思ったのです。あなたの役に立つ袋として。今までありがとう」
「そんなこと言うなよ。ボクはまだ君と暮らしていたいよ。」
「どうか泣かないで下さい。私は水分が苦手です。どうぞお元気で・・・」
それっきり喋らなくなった福袋星人を抱きかかえ、ボクは大粒の涙を零した。涙が福袋星人を濡らすけど、もう、苦しむ声も上げなかった。
洗濯したTシャツは本当はボクが着たかったんだけど、子猫たちはこのTシャツに包まって眠るのが好きみたいで、ついに取られてしまった。でもそのほうがよかったのかもしれない。あの時、このTシャツに袖を通す程にはまだ気持ちの整理がついていなかったから。
助手席で大人しくTシャツに包まれている、3匹のもうすっかり大人の猫を見ながらボクはそんなことを考えていた。
おっとこの道だな。
ボクは車を降りると、猫達をTシャツごとリュックサックに押し込んで山道を登り始めた。
1時間程上ると、開けた場所に出た。
その中心に2本の大きなイチョウの木がある。イチョウの木は葉の半分ほどを黄色くしていた。
まだ銀杏は落ちてないみたいだ。見上げて目を凝らすと枝にぎっしりと銀杏がぶら下がっている。
ボクは福袋星人に託されたあのお金で、山に少しの土地と大きなイチョウの木を買った。
イチョウの木は銀杏が実るようにオスの木とメスの木の2本だ。
そして、その木の間に小さな墓を立てた。
今度来る時は、ここで取れた銀杏を使った茶碗蒸しを持って来よう。
ボクにはダシの秘密はわからないけど、ここの銀杏でなら、きっと美味しくできるはずだ。
ボクは近頃高くなってきた空を見上げて大きく一つ深呼吸をした。
この時に鰹さんから頂いたものが元ネタになっています。
鰹さんには記事にすることをお約束したのですが、長くなるは、なかなか書けないはで3ヶ月近くかかってしまいました。
読んでの通り、時間をかけたからって面白くはならないのですが・・・。
めちゃイマサラですが、有難うございました。今も我が家に大切に保管しています。
ラベル:大人の童話




しかし勝浦氏が「札束」をくれるなんて・・・
む!? だから大雪なんだ。タタキにしてやるー!
来年なりっとさんが手にする福袋にも、素敵なお話
書いてあげてくださいねん。
是非、福袋叩きにして上げてください。
札束はaquiさん作のこれです。
http://www.small-hands.net/aqui/magurot.html
うーん。去年のTBボケにそんなお題があったような・・・。
来年はもっと面白いものが書けるといいなあ。
泣いちゃいました。
長いの読んでもらって恐縮です。
その上こんな感想まで。
>泣いちゃいました。
鬼の目にも涙ですね(逃
ちょうど去年の今頃の事です。
よいお話にまとめられるのはうまいです。
はぃ。
はぃ。
ネタっぽくするつもりが良い話風味になってしまい、
それがサラっと書けなくなった理由です。
どうもこの手の方向に話しを持っていく傾向があるようです。
かなり設定無視な福袋星人になってしまいました。
トラックバック有難うございます。うれしいです。
今、読み返してみました。いや、お恥かしい。
頑張って書いたつもりなんですけどね。
ってか、このクソ長いのを読んで下さるだけでうれしいです。