2007年01月11日

解決の糸口

第四の扉-「スペースエイジのバラと廃物」へのトラックバックです。



ブラインド越しの日の光だけが光源のせまく薄暗い雑居ビルの一室。今日も暇ではあるが静かな至福の時間が流れている。

「わたし、未だにたまに考えるんですが、結局なんだったのでしょうね」

机の上に山となった吸い殻を片付けながら助手が俺に話しかけてくる。机の上で足を組んでソファに深く沈みこんで目を瞑っている俺にだ。
寝てるから話しかけるなという意思表示のつもりなんだが、気づいているのかいないのか、この助手はいつもそれを無視して話しかけてくる。
返事をするのも億劫だし、何を言い出すのかも大体察しはついているので、このまま寝たふりを続けたいところだが、前にそれをやって吸い殻満載の灰皿を頭からぶちまけられて以来、俺は断固ニコチンは頭からではなく口から摂取する主義だ。仕方がないので返事をしよう。

「なにが?」

「あれですよ。一年前のあの謎」

やれやれ。やっぱりだ。

「一年前?」

「ほら、あの・・・」

「「脱獄不可能」と呼ばれる警戒厳重な刑務所。
  その牢獄に長年繋がれている謎の人物の正体とは!?」


「・・・ってやつ」

「ああ、あれか。君はまだ解けないのか?」

うっかり口をついてしまった。この後の展開は目に見えている。全く、面倒だな。

「え、先生は解けたっていうんですか?」

「とっくにな」

「じゃあ、今からでも遅くはないですよ。早速謎を解き明かしましょうよ。だって、世界中の名だたる名探偵たちが束になっても解けなかった謎ですよ」

「束にならなかったから解けなかったんだよ」

観念した俺は煙草に火をつけてそう言った。この事務所には紫煙がよく似合う。助手は喫煙所を作ってくれとやかましいが、知ったことではない。

「???」

助手のはてな顔を眺めるのも飽きたので、煙草の煙と共に言葉を紡ぐ。

「彼等名探偵たちのアナグラムした答えの先頭の単語を抜き出して並べてみな」

「えっと・・・」

ごくふつうのかだ

めんかいじかんはしゅうりょうしました

るすこなとみずをはかる

かれのたいじゅうのぞうげんがこっかのなにかをゆるがすきけんなようそをはらんでいる

がげいにじっそうかがなるれんかをたすけらんのはなぞのゆうきゅうのよるをいかん

まさしくながためのたかららてんにはげ

どうかてんしさまのおいかりがとけますように

なのつぎのみぎはtrue

つまりしんじつさ

こんなことでいいのだろうか?

めいのちずいこん

いこんのかいしよう

まイコがのりのりだあっ、こん!

たかはしめいじんをもしたあいこんがかくされているとかんがえることができるのではないだろうか!!

あぶさんは ほんとうに おさかなの えさとして きゅうりを しいれたわけで
やかんに そのような じどうはんばいきの じゅようがあるとは かんがえられず
どうやら おうこくの あかじたいしつも かいしょうされそうに ありません

ばんとうといえばあのおとこしかいない
あのおとこがなにやらさそいをかけている
とはいえどうせほりゅう

まちがった

つまりなにかがまちがっているのである

わたし しずかに たちあがった

そのちへとしんじつのたんきゅうしゃたちをいざなうちず

わたしにはもうあきかんはみえない

どうやらふたたびいんとんのときがきたようだ

せいあるもののいとなみはせいあるものにまかせるにかぎる

すべてのめいたんていしょしは、きたへしんろをとれ!!!

あのひとあのひぼるしちをくいにげしたあたしが
どうちゅうをともにしたおとこ
きしめんをむせんいんしょくしたかれを
あたしはきしめんとよんでいた

げんし めしあはしんで
たいたんを どせいを ちきゅうを たいようを
きんかんしょくの あくむが ちのしたたるしに おとしめた
あしひと ひこぼしと ともにあれ

「・・・できました!」

ごくめんかいるすかれこまさしくどうかなのつまりこんなめいいこんまイコたかはしめいじんあぶさんばんとうまちがったつまりわたしそのわたしどうやらせいすべてあのげんし

「これをアナグラムするとこうなる」

つまりどうやらあのいこんコそまさしくわたしのせいまちがったはんたんかめんのばんとうあぶべいいたいごくなこどしてすまんしめじめうつりかわるかれなイすさまげんしか

つまりどうやらあの遺恨こそまさしく私のせい間違った判断。
あぶ、仮面の番頭へ言いたい。
「酷なことしてすまん」
じめじめ移り変わる枯れない巣さ。曲げん死か。

「おお、すごーい。アナグラムされた文章一つ一つに意味があったんですねっ!」

「そりゃそうさ。すべてはこのメッセージを組み上げるために必然的に導かれた文章なんだよ。でたらめに言葉を並べているわけじゃない」

「あれ?でも1字足りないですよ。”こ”が」

「ふむ。良く気がついたな。偉いぞ。でもまあそれには意味がある」

「意味?」

「まあそれは置いといて聞けよ。最後のアナグラムがこの言葉の背景を語ってくれている。彦星と織姫の伝説は知っているな?」

「1年に一度、7月7日にしか会えない恋人の物語ですよね?」

「そうだ。じゃあ、彼等は誰に離れ離れにされたのか知っているか?」

「えっと、織姫のお父さんかな」

「そう。つまり天帝だ。天帝とは天子のみが祀ることを許された道教の最高神だ。このメッセージは織姫と彦星の中を引き裂いた天帝が、織姫と彦星に向けて記されたものとして書かれている」

「でも、神様が牢獄に繋がれているわけないですよね?」

「勿論。これは天帝を語ることのできる天子、すなわち当時の王が自分の娘と仲を引き裂いてしまった娘の恋人に向けて記したものだ」

「じゃあ、あぶ仮面の番頭というのは・・・」

「ああ、自分の娘とその恋人の名前だ。天子は娘の恋人に絶対に取れない仮面をつけた。仮面をつけても恋人は娘と話すことはできたが、仮面のせいで目が見えない。男はやがて自分の見えないところで娘が何をしているか分からないと疑いだすんだ。仮面を付けているという精神的苦痛から、普段は声だけでも信じられるものが信じられなくなってしまったんだな」

「そんな・・・酷い」

「ああ、酷い。しかし天子もこの過ちに気づくんだよ。娘の失踪という形でな。娘は疑心暗鬼の虜となった恋人を連れて二人だけしかいない土地を求めて失踪した。二人きりの生活なら、自分だけの声しか聞こえなければ、恋人の疑いも晴れると思ったんだろうな。それでこの天子は二人に「すまん」と詫びてるんだ」

「ちょっと待ってください。王様が自分の娘の交際を破綻させたことを謝っているのなら、牢獄に長年繋がれている謎の人物の正体とは関係ないんじゃないですか?」

「まあ、慌てなさんなって。次のセンテンスはこうだ『じめじめ移り変わる枯れない巣さ。』これが牢獄を示しているのさ。天子は悔恨の念から自ら入獄したんだ。当時の最高権力者が自ら牢に入ってるんだ。警備も厳重だし、当然脱獄なんかするわけがないんだよ。出たければ堂々と出ればいい。そういう意味で脱獄は不可能だ」

「なるほど。」

「でもまあ、出なかったんだろうな。天子は」

「え、どうして分かるんですか?」

「天子は最後にこう結んでいる「曲げん死か。」悔恨の念を曲げずに獄死したのだろう。天子が天帝と同じく自分の娘と恋人の仲を引き裂いたというのは奇妙な符号だが、人間である天子は神とは違う。七夕伝説とはならずに朽ち果てて誰の記憶からも消えて行き、物語はそこで終わったんだ」

「そこまでわかっているんなら、早速発表しましょうよ」

「言ったろ、終わったって。今更哀しい過去を解き明かしても誰も喜びはしないんだよ」

「でも・・・」

「なんだよ。もういいだろ」

「”こ”はどうなったんですか?」

「その文字を抽出したアナグラムを作ったのは誰だ?彼女は失踪しているだろう?つまり、その文字は入れてはいけないんだ。これがその他の名探偵が答えに気がつかなかった理由さ」

「やっぱり、発表しましょーよ」

「しつこいな。じゃあ、代わりにいいことを教えてやる。7月7日は王様の誕生日でもあるんだ。俺はこの符号から今言った答えを導き出したんだ」

「???」

「解らないなら自分で考えな。明日までの宿題だ。さ、今日はもう店じまいだ。呑みに行ってくる。戸締りはきちんとな」

「って、まだ4時前ですよ。それにこれから依頼人が来るのに」

「話だったら適当に聞いといてくれ。呑みに誘われてんだよ。いいか、呑みの誘いは呑みでしか断っちゃいけない。いい探偵になりたかったら覚えとけよ」

俺は背中で助手にそう告げると、ぎいぎいとやかましい事務所のドアを足で閉めてからふらふらと街中の雑踏へとその身を溶かしていった。

〜了〜

■□■□■□■【アナグラム・リレー企画=第一回ぷち清水賞テンプレ】■□■□■□■□■  
【ルール】
 リレー式トラバ企画です。
 前の参加者の記事の中から任意の一文を選び、それをアナグラムしてください。
 アナグラムで得られた一文をもとに

 「「脱獄不可能」と呼ばれる警戒厳重な刑務所。
  その牢獄に長年繋がれている謎の人物の正体とは!?」

 という謎に迫ってください。
 記事はひとつ前の参加者の記事にトラバしてください。
 分岐は不可とします。万一、二つトラバが重なった場合は先にトラバされた記事のほうを優先してリ

レーしていきます。
 (もう一方の記事からリレーを続けることはしませんが、その記事自体は参加とみなします。)

 参加条件は特にありません。
 同一人物がひとつもしくは複数のブログで何度参加しても可とします。
 ただし、自分自身が書いたものをリレーするのは別ブログからでも不可とします。

 企画終了条件は
 記事が20リレーするか、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 審査は特にありません。
 企画元が気に入った作品はまとめ記事で大々的に讃えます。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

 企画元 やみくもバナナメロン http://nightegg.exblog.jp/
 企画協力 オアフ党 http://ishio.exblog.jp/
 お題原案 ぢぇみにのBlog[Evolution III] 

http://jemini.exblog.jp/4742069
 たぶん総元締 毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/

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これまでの経緯
この物語に登場する、人物、団体、名称等は全てフィクションであり、実際の人物、団体、名称とは少ししか関係がありません。

って、ことで、お名前、リンクを勝手に拝借してしまいました。
absinthさん、earll73さんごめんなさい&有難う。

天子、天帝、七夕伝説の出典:
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
posted by なりっと at 01:00| 東京 ☀| Comment(5) | TrackBack(0) | 参加することに意義がある!のか? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ありゃま、たいへん。
ど長編やんか。
後ほどゆっくり読みにきます、ごめん。
ご参加ありがとうございました。
Posted by クレマム at 2007年01月11日 23:01
1年も経ってないもん!
(でも経ったも同然)
ラスト参加の上まさか、きちんとまとめてくださるとは思いませんでした。おかげでまとめ記事を書く手間が省けたよ(<いや、省いちゃ駄目だって)
一刻も早く、まとめ終了記事にしたいところなのですが、今日だけは無理(〆切の上、息子の誕生日だから)なので、まあそのうち(いつだ!)。ご参加ありがとうございました。
Posted by クレマム at 2007年01月12日 07:15
うわー、素晴らしい解決ですねぇ。
全部のアナグラムの最初の部分を使うなんて。お見それしました。
Posted by 放浪猫 at 2007年01月17日 16:26
>マムさん
良い企画に引導渡したようで申し訳ない気分でいっぱいです。
まとめ記事、期待していますが、なによりbeer君優先で。
あ、でもお母さんの前に画家だとしたら、お仕事優先と言ったほうがいいのかなあ。
いや、でも9歳のお誕生日は一生に一回なんだからやっぱりbeer君優先で。
Posted by なりっと at 2007年01月17日 21:54
>放浪猫さん
最後に参加する作品は全部のアナグラムした文を使ってなんかしたら面白いなあと、思ってました。
まさかそれが自分になるとは思いませんでしたが。
途中、なんどか挑戦したのですが、なにぶん書くのが遅くて。
Posted by なりっと at 2007年01月17日 21:54

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