2005年07月14日

ねがい

桜色の嵐は丘の下から桃色のとぐろを巻いて私のところまで吹き昇ってきた。

私はその渦巻きの中心で完全に身動きができなくなっていた。

目を閉じる。

その拍子にこぼれおちるものがあった気がするが、花弁の螺旋がすぐに絡め取ってしまったので、それがなにかを知らずにすんだ。

来年またここにこよう

その言葉を私はいつ聴いたのか。
声の主はとうの昔に土に還り、今はその記憶だけが深く、深く、目尻や手の甲の皺などよりも遙かに深く、大脳いや、恐らくはもっと原始的な脳に刻み込まれている。

もしかしたら、私という存在そのものに刻み込まれているのかもしれない。
さらにもしかしたら、その記憶こそが私で、私が私だと思っていたそのほかのもの全てが私の付属品なのかもしれない。

それならば納得がいく。

この、動かなくなった身体も、感じなくなった心にも。
外れてどこかにいってしまったのだろう。付属品なのだから。

「風が出てきたね。さ、帰ろう」

男はそう言って私の車椅子を押す。

この男もそうだろうか。

私という存在に何時のまにか付属している。
この男の笑い顔はあの人のそれに似ていた。
でも近頃男はすっかり笑わなくなった。
代わりにこちらの胸が詰まるような、そんな笑みを湛えるようになった。

この男の笑いも笑みもあの人の笑い顔も、きっと付属しているだけなのだろう。

外れるくらいなら、初めから付いていなくともいい。

世の中の全ての付属品が外されて私だけになればいい。

唯、そんな風になればいい。

posted by なりっと at 00:26| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんとなく、いつかの春の風を思い出してしまいました。

こちらでは初めましてですね。先日はご訪問ありがとうございました。
一言ボケ結果発表しました〜。
Posted by yzclover at 2005年07月14日 19:32
>yzcloverさん
ボクの文章がyzcloverさんの記憶に繋がったのなら、なんかうれしいです。

初めまして。審査ご苦労様でした。
遅れちゃいましたけど、そちらに伺います。
Posted by なりっと at 2005年07月19日 22:40

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