2005年08月10日

FireWorksSimulation

シミュレーションなんてするんじゃなかった。

彼女が遅れた30分間、僕はじわじわと緊張していて、彼女の下駄の音でついに心臓の音が聞こえ始めた。

カランコロンカランって僕に走り寄って「ごめん」なんて言うから、周りには僕たちが付き合ってるみたいに見えるじゃないか。

それ、いい。全然いいよ。

学校で毎日見てる顔なのに、やっぱり今日は特別だ。
さっきまで、黒板の字を目を細めて見る横顔が一番好きだったけど、新記録更新だ。

浴衣が似合っていたからかな。
髪をアップにしてるからかな。

「着付けが難しくって」

「浴衣、着ないんじゃなかったの?」

「うん。でも、なんとなく」

こういうときは褒めなきゃ。ええと「かわいいよ」かな。
それとも「よく似合ってるよ」かな。
でも、僕がいきなりそんなこと言ったらきっと気味悪がられるから「結構いいじゃん」って言ったんだ。

でも彼女ときたら「え?何?」だって。
そりゃ確かにいつもの癖で声はちっちゃくなっちゃったけどさ。聞いててよ。

「なんでもない」

あー、緊張してきた。そう言えば僕は自転車に跨ったままだった。カッコわりい。
でも彼女はそんなことは気にもせずに自転車の後ろに乗ろうとこちらに近づいてくる。
僕の自転車の後ろは、ちょっと高くて彼女は乗りにくそうにしてたけど、僕は僕でこれ以上近づくと彼女に心臓の鼓動がばれそうだったから、ただ自転車が倒れないように馬鹿みたいに踏ん張ってたんだ。

「じゃあ、行くよ」

人ごみを縫って僕らは出発。本当は「しっかり捕まってて」って言いたかったんだけど。

でも、今はとにかく急がなきゃ。

商店街を抜けてコンビニの脇を抜けてタバコ屋の角を曲がって。
どんどん漕いでどんどん進め。
ライトなんて灯けてられない。ブレーキなんて握ってられない。
もっともっと早くもっともっと速く。
踏み切り越えておばちゃんチャリもゴボウ抜き。

この長くて急な坂を越えたら目的地まであとちょっと。よし。これなら間に合う。
でも、その時僕は立ち漕ぎできなくなったんだ。

だって。


彼女が僕の腰に捕まってきたから。



間に合いたいし、離されたくないよ。くっそ、がんばれ僕。



二人乗りで座ったままでこの坂登るなんて、僕も結構やるな。
高台の公園に着いて僕は自画自賛。きっと愛の力。今ならなんでもできるかも。
なんて、満足してる場合じゃない。ベストポイントへダッシュ。間に合うか。

乱暴に停めてガシャンと倒れた自転車を気にする彼女がじれったくって、僕は彼女の手を取った。
彼女の驚いた顔がちらっと見えたけど、どきどきなんてしてられない。まだ間に合う。

あの階段を登って、取って置きの言葉を彼女に言うんだ。僕が強く握ると彼女が握り返す。あと5段。

あれ?取って置きの言葉ってなんだっけ?彼女を待ってる間にあんなにシミュレーションしたのに。そのお陰で緊張しちゃったってのに。やっべ、なんだっけ?あと3段。

とにかく、息だけでも整えなきゃ。汗だくでぜいぜい言ってちゃ締まらない。

ふいに彼女を見た瞬間、彼女の顔を光が照らした。すごいきれいだと思った。そしてその少し後に大きな音。

ドーン

あーあ、間に合わなかった。

本当はこの一番最初の花火が上がる直前に取って置きの言葉を伝えて、二人で花火を観終ったら答えを聞こうと思ったのに。
だって、花火の最中じゃ僕の小さな声は彼女に届かないかもしれないし、終わってからじゃ静か過ぎてきっと言った後の間が持たない。

今回は失敗だ。また作戦練ろう。あ、また彼女の顔が光った。口あけてる。


「あのさ」


うん?なに?もう少しで着くんだけど。




「好きだよ!」




肝心なところは花火の音とカブったけど、彼女がめいっぱい声を張り上げたからちゃんと聴こえた。
というか、花火の音なんか全く聞こえなかった。

僕が彼女の言葉に反射的に答えた声は、自分でも思いがけず大きかったから、花火の音にはかき消されないで彼女の耳に届いたみたい。




花火の後、彼女は花火の音が鳴っている時に告白しようってシミュレーションしてたんだって、教えてくれた。

「だって一番最初の好きは、大きな声で言いたかったんだもん」

だってさ。照れるじゃんか。

posted by なりっと at 23:50| 東京 🌁| Comment(8) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あー、いーですね。
こんな恋、久しくしてませんね。
というか、こうでなければ、恋と言えない気すらしました。
うーん、夏って感じですね。
Posted by 98765421 at 2005年08月11日 18:51
浴衣の着付け&髪のセットは結構お金がかかるものです。
お世辞でもいいから褒めるべきです。
男性諸君。
Posted by sivaxxxx at 2005年08月11日 20:58
>Mr.ニック
夏の恋を感じてくれたら幸いです。

ボクも久しくしてないです(遠い目

ってか、出会いがありません。
Posted by なりっと at 2005年08月12日 00:03
>シヴァ先生
夏休みの課題を提出します。もう一個くらい書くかもしれませんが。

あっさり褒めちゃうと、オッサン化が始まってるような気もします。
ボクなどもうすぐイタリア人並みになりそうです。

浴衣でちゃんとお金かけてやる人偉いです。ってかそこがかわいい。
ツマなど、なんか我流でちゃっちゃと済ませてます。うーん。
Posted by なりっと at 2005年08月12日 00:03
なりっとさん、こんばんは。

ドキドキしますね。
最近は浴衣が流行っているようで、時代を読んでます?
だけど、浴衣の着付けをしてくれる所があるのは知らなかったです。
だけど、褒められて嫌な人はいないと思います。
オッサン化、なんて、そんなぁ。なりっとさんは十分若いのですから、自覚してくださいね。

それから、20代の頃の浴衣、まだ着れます。
当然チカパパは「ママ、かわいいね」って言ってくれます。
ああ、またのろけてしまいました。
Posted by チカママ at 2005年08月13日 22:19
>チカママさん
狙っているわけではないのですが、夏、花火とくれば、浴衣、恋かなと。
花火でいろいろ書こうとしたのですが、なぜか恋の話になってしまいます。
故意ではなく。(あ、今ウケました?

>20代の頃の浴衣、まだ着れます。
それはすごい。体型を維持されているのですね。
ツマに煎じて飲ませるので、爪の垢を送ってください。
Posted by なりっと at 2005年08月16日 00:04
なりっとさん、おはようございます。

え?鯉じゃなくってですか?あ、夏は金魚すくいですねっ。

>体型を維持されているのですね。
とんでもない!!です。
しまった!と思って慌てている私です。
浴衣は多少の融通がきくのですよ。あ、多大な、ですか?
柄です。黒字に赤なので、何とか違和感なく着れるかなって。
なので、爪の垢は送れないのです。
失礼しました。
Posted by チカママ at 2005年08月16日 08:50
>チカママさん
20代で黒と赤の浴衣とは大人っぽいですね。

では、いつもかわいいって言ってくれる旦那様の爪の垢を下さい。
ボクが飲みます。
Posted by なりっと at 2005年08月18日 01:29

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。