2007年03月29日

春のレシピ

あなたはいつから春ですか?と聞かれたので今回は春のレシピです。


【 材料 】
年度末
日差し
春一番
終わりかけの冬



1.気温が高くなってきたら、歩調を少し緩める。

2.白木蓮の花弁が色褪せてきたら、コートをクリーニングに出す。まだ寒い日もあるけど、一雨ごとに必ず暖かくなるので、クリーニングしたコートをまた着たりはしないで我慢すること。

3.日の当たる公園のベンチで昼食を摂る。目が痒ゆかったり、鼻水が出始めたら、屋内の窓際で代用すること。

4.よく春一番に吹かれる。家に帰ったら、鼻の穴をテッシュでよく拭くこと。

5.送別会に出る。この時、送る側なら餞別を用意すると良い。連絡先を聞いてないなら、忘れずに聞くこと。

6.1から5を全て足して、少しだけ胸が詰まったような気分になったら完成。正味期限はゴールデンウィークあたりまで。


どうぞ、ご家庭でお試しください。
posted by なりっと at 00:46| 東京 ☀| Comment(10) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月12日

偶然か必然か

砂浜のある一粒を選び集めて作った楼閣。
危くとも
脆くとも
儚くとも
美しいことには変わりはない。
僕らは皆、その美しい城を建てている。
奇跡という名のその城を。



9月7日はこのブログの黎明期からの友人である、ruruさんの誕生日でした。

実は、友人とか言いつつそのことをすっかり忘れていました。全く酷いですね。
では、なんで思い出したかと言うと、偶然に、ほんとに偶然に、一年前の自分の記事を読み返していたのです。
この夏は家でパソコンの前に座っていることすら稀で、自分の記事を読み返すのは更に稀で、それも丁度一年前に書いたさruruさんへのお祝い記事を読むなんて。

一体どれ程の偶然なのでしょう。

いや、その前に、数えることも馬鹿らしい程の無数のサイトから、ruruさんの携帯で撮った空になんだかとても引込まれて、思わず残した最初のコメント。これにはどれだけの偶然が積み重なっているのでしょう。

この幾億万分の一の確率と、
三百六十五分の一日に、

おめでとうとありがとうを。
posted by なりっと at 02:10| 東京 🌁| Comment(4) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月08日

オンガクガスキ

「やっぱ音楽はいいよね」

「待ち合わせに2時間遅れた後の第一声としては最悪だけど、確かに音楽はいいよね」

「君はDonな音楽が好き?」

「歌謡曲の歌詞みたいだよ」

「え?僕?僕はねえ」

「聞いてないんだけど」

「やっぱゴスペルかな」

「へぇー、意外だね。クリスチャンだっけ?」

「え?塩ラーメン講じゃだめなの?」

「ダメじゃないかも知れないけどって、どんなマイナー信仰だよ」

「やっぱコード進行はマイナーが胸に響くね」

「話が噛み合ってないよ」

「君、神を冒涜する気か?」

「カミ違いだってこと」

「紙一重で?」

「全然違うよ」

「え?最近のお気に入りはね」

「だから聞いてないって」

「ネギマスイッチ」

「ヤなスイッチだなあ」

「もう、ベビーローションで聴いちゃて」

「ヘビーローテーションね。携帯プレーヤーなんか持ってたっけ?」

「ポッドでしょ。勿論」

「あ、いいな。mini?nano?」

「ううん象印」

「酷すぎてツッコミたくもないよ」

「最近カタカナのタイトル多いよね」

「ああ、ユメクイとか、アオゾラペダルとか」

「うんうん。あとニイタカヤマノボレとか」

「曲じゃないよね」

「チチキトクスグカエレなんか泣いちゃう」

「まー、泣くかもしれないけど」

「ワレワレハウチュウジンダ」

「それはバルタン星人」

「の曲」

「台詞ね。そんなことより、カラオケ行くんじゃないの?」

「えー、これからバターコーントッピング100円様へお祈りを捧げる時間なんだけど」

「貧乏な人のプチ贅沢みたいな神様だね」

「それに喉がカラカラだよ」

「どうして?」

「新曲の練習してきたから」

「それで遅れたんだ」

posted by なりっと at 02:49| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月28日

チコと父

実家にチコという猫がいる。捨て猫だったから正確には分からないけど、20年は生きている。
チコが家に来た時は、こんなに長い付き合いになるなんて想像もできなかった。
だって、どう贔屓目に見ても虫の息だったから。

雨の日に友達が駐車場から連れてきたチコは濡れぼそっていて、骨と皮だけで、お腹の毛が斑にしか残ってなかった。喉が潰れているらしく、鳴き声を上げても空気の洩れるような音しかしない。
既に1匹捨て猫を飼っていたこともあり、チコを連れてきた友達は「ウチなら飼ってくれるかも?」と思って連れてきたのだろう。

その時ボクは断った。

チコはやっと目が開いたくらいの、本来なら可愛らしいと思う子猫だったけど、当時のボクは目の前のチコを日頃可愛らしいと感じてる子猫と同じには見れていなかった。

今まさに息絶えようとしている生物。

今になってあの時の感情を言葉にしてみると、だいたいこんな感じになるだろうか。
放っておけなかったからこそ、ウチにチコを連れてきた友達は、あてが外れてさぞ困ったのだろう。友達はボクが少し目を離した間にチコを置いて帰ってしまった。

チコを動物病院に連れて行くと、何者かに虐待されていたことが折られた肋骨と、既に光が奪われた片方の瞳と、薬品をかけられてただれたお腹の傷から分かった。
瞳は煙草か線香のような高熱のものを押し付けられたのだろう、猫同士のケンカではこのような傷は絶対負わない。と、獣医は言った。
手のひらに載せることができる程の子猫が、喉を潰され、肋骨を折られ、お腹を薬品で焼かれ、瞳を潰される恐怖とはどんなものだろうか。
もしも犯人が分かるなら、チコにしたことと全く同じ目に遭わせてやりたいと、子どもながらに思った。その気持ちは20年経った今でも変わらない。

結果的にチコは数回の病院通いで、命に別状はない程に回復した。
性別もメスだと分かり、ボクがつけた「チコ」という名で我が家の新たな家族となることが決まった。
チコはそれまで飼っていた猫ともうまくやり、今までの不幸を取り返すかのようにすくすくと育ったが、人になつくことはなかった。無理矢理捕まえない限り絶対身体に触らせなかったし、エサを与えても人間がそこを立ち去るまで決して食べなかった。
それは、チコの受けた心の傷を考えると当然のことのように思えた。

数年が経ち、ウチに新しい捨て猫が来た。他にも何匹もの捨て猫がうちに集まってきていた。
チコはその子猫達を母親のように育てた。
この頃になると、チコは唯一身体を触らせる父の部屋をテリトリーにするようになる。
それまで飼っていた猫や、他の子猫はボクに良くなついていたので、父は自分になついたチコをとても可愛がった。
また数年が経ち、家を引っ越すことになった。最大5匹いた猫たちも、チコ1匹だけになっていた。
引っ越し場所を決めるのは時間がかかった。なぜなら、賃貸でチコを飼っていいところを探さなければいけなかったからだ。
「チコは声がほとんど出ない(それでもほんのわずかだけは出るようになっていた)から、うるさくない」と、父が不動産屋に何度も説明した。

数年で2度ほど引っ越した頃には、チコもすっかりおばあさんになっていた。ウチに来た時の状態からは想像もつかない姿。
ボクが所帯を持って家を出ると、チコと父はそれまでよりもさらに寄添って生きているように見えた。
そんな穏やかな生活を送っていたチコに異変が起こった。病院に連れて行くと、老年からくるてんかんだという診断を受けた。
チコを失った時の父の落胆ぶりを想像すると、寿命という一言では納得できなかったが、チコは日に日に弱り、ソファに飛び乗ることもできなくなっていた。
そんな時、ツマが人懐っこい子猫を拾ってくる。
ボクはこの猫を父に飼うよう勧めてみた。
父は逡巡しながらも、その子猫を飼うことにした。子猫は父がモモと名付けた。
チコはまた子育てをするようになる。すると、すくすくと育つモモに引き上げられるようにして、チコは元気を取り戻していった。嬉しい誤算に父もボクも喜ぶ。

モモが大きくなり、チコの手を煩わせないようになると、チコの病気は再発した。
てんかんの発作に加え、夜中じゅう家の中を徘徊した。もう、滑るフローリングの床では歩くこともままならないというのに。
それからというもの、父は日毎に変わるチコの状態に一喜一憂しながら毎日3回弱々しく嫌がるチコに謝りながら薬を飲ませている。
発作がひどいときは眠るのもままならないそうだ。
前に父は「夜中にこいつにもう死ねって言ったんだよ」と、苦しそうにボクに漏らした。そのあと「でも、ずっと連れ添った仲だからな」と、付け加えた。

20年連れ添ったチコと父。通じ合う者同士、どちらも離れがたいのだろう。
チコは今日も生きて、薬を嫌がりながらも晩酌する父の隣で眠っている。
それがいつまで続くのか分からないけど、チコと父の幸せな時間は確実に昨日もあり、今日もある。
きっと、明日も明後日もあるのだろうと思う。

posted by なりっと at 22:38| 東京 🌁| Comment(7) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月12日

献(トじ)立は難しい2

「いらっしゃい」

「お肉下さい」

「牛、豚、鳥の他にも珍しい肉もあるよ」

「シビエ料理ですか。いいですね。何の肉があるんですか?」

「猪、鹿、蝶なんかお勧めだよ」

「花札じゃないですか。あ、そうだ。ラムとかありますか?」

「迷えるコ羊ね。ありますよ」

「迷えるは余計です。ではラムチョップを下さい」

「そうじゃないでしょ」

「え、すみません。って、なにがですか?」

「ラムちゃんはやっぱ電撃じゃないと」

「はあ」

「そして電撃といえば、ネットワーク」

「あの、お肉欲しいんですが」

「コロッケもあるよ」

「お肉屋さんのコロッケって美味しいんですよね」

「メンチキルコロッケとか」

「カツですね」

「もっと端っこ歩きなさいよ」

「全く似てないですけど、美川憲一の真似をするコロッケの真似ですよね?」

「ステーキとかどう?」

「たまには贅沢してみようかな」

「ウチの肉は飼育段階から贅沢だよ。まず餌が贅沢」

「テレビで見たことあります。ハーブとか食べさせたりするんですよね」

「もっと贅沢。最高級―」

「私より良い物食べてそうです」

「松坂牛を餌にする」

「共食いですよ」

「以外に食いが悪い」

「草食ですからね」

「お酒も飲ます」

「あ、それもテレビでやってましたワインとか飲むんですよね」

「ウチはシャンパンを飲む」

「凄いです。いい風味がつきそうです」

「ドンペリ入りましたー」

「俗っぽいですよ」

「ピンクでも?」

「余計酷いです」

「でも、せっかく育ててもいつか肉になるんだよね。可愛いわが子」

「ちょっと悲しいです。でも、私たち人間はそうやって生きていくのですね」

「可愛さ余って肉さ100倍美味しい」

「もういいです」

posted by なりっと at 23:19| 東京 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

献(トじ)立は難しい

「へい、らっしゃい!」

「魚下さい」

「いい子いるよ」

「いかがわしい店みたいですね。あの、刺身にしたいのですが」

「刺身にするなら、今日はゾウ、キリン、ライオン、ベンガルトラ、クマがいいね」

「ここは動物園ですか。魚を下さい」

「それなら、イルカとシャチが―」

「哺乳類ですよ」

「丸呑みしたカタクチイワシ」

「嫌です」

「骨まで柔らか」

「消化寸前じゃないですか」

「じゃあ、鯉は?」

「コイコクですか、いいですね」

「さっきまで上がってた―」

「さっき揚がったの間違いですよね」

「鯉のぼり」

「食べれませんよ」

「ヒゴイにする?」

「そういう問題じゃないです」

「お客さん、カキは?」

「大好きです」

「生ガキ、干しガキ、渋ガキ、糞ガキ、重火器があるよ」

「食べ物ですらないものも混じってますよ」

「おまんら、許さんぜよ!」

「なんですか。いきなり」

「麻宮カキ」

「サキね。古すぎます」

「そして栄養価も高く―」

「なんだか、あるあるっぽいですね」

「森のバターと言われてる」

「海のミルクですよ。さっきから、どれだけカキでボケるんですか」

「いやあ、カキ入れ時だし」

「使い方間違ってますよ」

「お客さん、カニは?」

「いいですね」

「特大のワタリガニが入ってるよ」

「わ、ほんと大きいですね。ハサミも立派です」

「刃渡り10センチはある」

「それ、ワタリガニのハサミに対して使う言葉じゃないですよ」

「卵もたくさん持ってるよ」

「すごい、はみだしてます。あれ?こんな形してましたっけ?」

「あ、それとびっこ」

「なに詰めてるんですか」

「結構大変だったよ」

「聞いてません」

「もしかしてタラコのほうがよかった?」

「詰めちゃだめなんですよ」

「だってオスは味気無いから」

「しかもオスなんだ。紛らわしい加工しないで下さい」

「どうしてもだめ?」

「そりゃそうでしょう」

「厳禁?」

「ひつこいですね。そうですよ」

「まさにカニ厳禁」

「そこ、どうしてカキとかけないんですか」

「カキとかけたら、いつまで経っても終わらないじゃん」

「意味が分かりません」

「だって書き(カキ)かけだから」

「やっぱり今日はお肉にします」


posted by なりっと at 23:18| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月17日

ええと、つまり鰹が食いてえと

てけてんてんてん…

えー、毎度ばかばかしい噺をひとつ。

江戸っ子ってえのはとにかく初ものが好きな輩ででして、なにかっちゃあ、初ものをありがたがるもんでございます。
中でも初鰹は別格でして、目の色変えて求めるんでございますが、これが偉く値の張るもので、宵越しの金を持たない江戸っ子にはなかなか手が出ない。
そうなりますと中にはこんな不届きものも出てくるんでございます。


「おい」

「はいな、おまいさん。なんだい?」

「巷じゃそろそろ鰹の季節じゃあねえのか」

「はいな、隣りの熊さんの奥さんも言ってるよ」

「そうかい、あすこのオカチメンコも言ってたってこたぁ、よいよ初鰹だな。よしっ、ちょっくら河岸行って買ってくらぁ」

「はいな、おまいさん。でもお金がないよ」

「なに?そら困ったな。よしっ。お前ちょっと一緒にこい」

「はいな」

そう言って女房を外に連れ出した旦那は、どこに行ったかと申しますと、質屋でございます。


「おい」

「はいな、おまいさん」

「お前ちょっくらここに入ってろ」

「はいな」

「おい、オヤジ、この女房で少し用立ててくんねぇか。ちょいとトウは立っちゃあいるが、なかなかいい女だぜ。ああ、贅沢は言わねぇんでね何、ちょいと初鰹でも買いてえだけなんだ。ああ、それでいい。すまねえな。おい、お前、そいじゃ行って来っからよ、待ってな」

「はいな、おまいさん。行ってらっさい」

カッ、カッ


火打ち石の音を背に景気よくカシに出かけた旦那は、首尾良く初鰹を手に入れまして、意気揚々と家に戻ってきたんでございます。

「いや全くいい鰹が買えたぜ、早速頂くとするか。しかし折角の初鰹だ。しらふってぇわけにはいくめぇよ。おい!酒だ酒」


2人暮らしの身で、質に入れた女房を呼んでも当然返事はないわけでしで、貧乏長屋はしーんっと、静まりかえって居ります。仕方がないので自分でお勝手を物色するんでございますが、なにせ勝手がわからんもんで、旦那もついには諦めて、とにかく鰹を食おうと居間に引き上げていきました。


「全くしょうがねえな。そうだ薬味がねえな。おい、薬味だ薬味」


女房はいないと分かってはいるんですが、そこは長年連れ添った癖ってもんがございます。旦那はなんだしょうがねえななんて、駄洒落を飛ばしながら、またお勝手を物色します。なんとか刺身を盛る皿は見つけたものの、醤油はないは、ワサビはないは、そもそも肝心要の鰹を捌く人がいない。
旦那はお勝手で馬鹿みたいに刺身皿だけ持って途方にくれてしまいました。


「あ、熊さんとこのオカチじゃなかった奥さん。こんなとこで奇遇ねえ」

「あ、お隣りのヒョーロクじゃなかった奥さん。いえね、ウチの人が初鰹を食わないといけないってウルサいんでね」


質屋は女房だらけで大賑わいなんでございます。そこへ、鰹と刺身皿を抱えた旦那が半ベソかきながら帰ってきました。


「おい、鰹食いてぇんだが」

「はいな、おまいさん。でもなんか一つ忘れてやしないかい?」

「・・・質草にしてごめんなさい」

「気にしちゃいないさ。そうじゃなくて」

「これからはまじめに働いた金で鰹をお前にも食べさせたいと思います」

「あらうれし。でも違うんだよ。おまいさん。」

「ええと、分かりません」

「馬鹿だね。おまいさん。本当に分からないのかい?」

「へい、分かりません。後生ですから、どうか教えてやって下さい」



「刺身にはツマがなくちゃ締まらないだろ」


おあとがよろしいようで。


てけてんてんてん…
posted by なりっと at 22:42| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月15日

マティーニで乾杯

雨。
微かな風にもたなびくその雨は、雨というよりはむしろ夜霧に近い。その夜霧の中で注意深く探さなければ見落としてしまいそうなほど弱々しく灯る明り。その明りが主張するのは一軒の小さなバー。男は一つ短く溜め息をもらしてから、そのバーの古ぼけた木製の扉を押し開いた。

「バーテンさん、ま、マティーニを」

店に入るなり、目線と僅かな手の動きだけでカウンター席へといざなわれた男は、席につくと同時にされたおしぼりで手を拭いながら、唯一知っているカクテルの名を口にする。

「...」

店員は一人、客はカウンター席の男一人のこの店で声が聞こえていないはずはない。
しかし店員の視線は今男におしぼりを渡したはずだが既にロック用の氷を作る手元に固定されており、一糸乱れぬオールバックの横顔はあたかも蝋人形の如く凍り付いている。

「あの、バーテンさん?」

男が店員の所作に些か気後れしながらも再度おずおずと話しかけると、店員は顔を上げずに囁やいた。

「私どもバーテンダーはこの仕事に誇りを持って居ります」

低く抑揚の少ない声だが、決して聞き流されることのないようなそんな声だった。

「はあ」

言葉の意味を図りかねている男の生返事を聞いて、2秒ほど瞑目してから顔を上げ、男にこう言い放つ。

「お客様はプレスリーにラブミーテンを歌えとリクエストして彼が歌うと?」

店員は疑問符のところで器用に片方の眉だけを上げると、そのまま男を見つめる。
その試すような眼差しに男はようやく自らの失策に気がついた。雲間から差し込む日の光にすがる信者のような心持ちで、男は小さな詫びと注文をやり直した。

「ああ、失礼しました。では、バーテンダーさん、マティーニを頂けますか?」

「かしこまりました」

「僕、実はこーゆーお店初めてなんですよ」

「お酒はあまり召し上がらないので?」

「いえ、普段は専ら屋台で日本酒ってクチでして、洋酒はほとんど口にしません」

「なるほど、それでマティーニですか」

「どういうことでしょう?」

「つまり、Tryマティーニだと」

「そういうつもりはなかったのですが」

「まさか、渡来マティーニ?」

「違います」

「では、普段日本酒しかお飲みにならないお客様にどういう心境の変化が?」

「とても言いにくいことなのですが」

「これは失礼しました。長年この仕事をしておりますと、声でお客様がなにか言いたいことがあるのか分かるような心持ちになることがごさいます。私、お客様の声をそのように感じてしまったようです。いやはや、精進が足りません」

「あ、いえそんなことないです。確かに言いにくいことなんですけど、実はここに来てもし、バーテンダーさんが話しやすい人だったら、ちょっと聞いて貰いたいことがあったんです」

「私は合格ですか?」

「はい。あの、聞いて貰えますか?」

「私でよろしければ喜んで」

「実は僕には...」

「なるほど、それでマティーニですか」

「凄い。もう分かったんですか?」

「つまり、出家して仏門に入りたいと?」

「もしかして、如来マティーニとか言いたいのですか?違います。お恥ずかしい話なのですが」

「なるほど、それでマティーニですか」

「まだ何も言ってません」

「つまり、泣きたい夜もあると?」

「Cryマティーニじゃありません。実はですね」

「つまり、坂口安吾だと?」

「無頼マティーニってなんですか。あのですね」

「♪さくらーふぶーきのー」

「サライマティーニって、泣けませんよ。もう、いい加減にして下さい」

「まあまあ、そんな怖い顔をしないで下さいませ。さ、できました。これを呑めば自然と笑みがこぼれるでしょう」

「つまり、笑いマティーニだと?」

「お客様は察しがいい」

「うれしくありません。ではいただきます。あ、確かにおいしいです。この辛口が胸に沁みます」

「通常のレシピに私のアレンジを加えてあります。つまり・・・」

「辛いマティーニですね?」

「その通りです」

「僕はどうやら足を踏み入れては行けないところにきてしまったようです」

「と、いいますと?」

バーテンダーは片方の眉を上げて疑問符を表現した。どうやら癖らしい。男は自然と口の端が上がるのを感じながらも、カクテルピンのオリーブを口に運んでゆっくりと咀嚼してからこう言った。

「つまり、地雷マティーニです」
posted by なりっと at 22:00| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(1) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月19日

最近のなりっと

とってもたのCくって、近頃シャープになってきました。そのくせボクはプラプラしています。コブツキでしっこなんて大っ嫌い。
posted by なりっと at 22:10| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月08日

なにかがなにかににつながっている

そうか、総てはつながっているんだ。

資本主義はどこかの国の貧困に、
夜空は月を入り口にしてそのむこうへ、
そして昨日の深酒は今日の宿酔いにつながっているんだ。

僕はガンガンする頭でそう、ひらめいていた。

頭痛はとりあえず無視して、ネクタイも取らずにへばりついていたベッドから起きあがって鏡をのぞき込む。

ひどい顔。

うつ伏せで寝てたせいか、僕の顔はむくみにむくんでいて、そのまま指名手配犯のポスターとして使えそうなほど凶悪だった。

おまけに無精髭も汚らしい。
僕は顎髭の1本をなにげにひっぱった。

なかなか抜けない。

もう少し強くひっぱったら、抜けずに伸びた。
もっとひっぱったら、もっと伸びた。

でもよく見ると前髪が1本縮んでいた。
どうも、顎髭と前髪はつながっているらしい。
そりゃそうだ。総てはつながっているんだから。

僕は髭が見えなくなるまで前髪をひっぱってから顔を洗うと、お気に入りのパーカーを着て外に出かけた。
今日はきっといいことあるはず。

家を出ると目の前にクロネコがいた。ほらね、ついてる。

にゃあと鳴くので、シッポをひっぱったら、案の定ヒゲが縮んだ。このままひっぱるとシッポとヒゲが抜けてしまいそうだから、ヒゲは1本づつ玉結びにしてあげた。

クロネコはなにも言わずどこかに走っていったけど、多分ほっとしているはずだ。
よかった。

僕は気をよくしてランチを食べようとカフェに入った。
狙うはもちろんアマトリチャーナ。
僕はノドボトケだけでくひひと笑いながら注文したんだけど、オニイサンに「もう、おわっちゃいまして」とか言われた。
くっそ、読まれたか。
仕方がないからエスプレッソを頼んだら、ドンブリ一杯イレてくれた。
僕は嬉しくてまた思わずノドボトケでくひひって言っちゃいそうだったけど、そう何度も同じ手には引っかからない。

てんこ盛りのエスプレッソは良い匂いがしてたから、僕はスプーンでグルグルグルグルかき回したんだけど、うっかりスプーンをドンブリの中に落としちゃった。
渦の中に消えてくスプーン。もう救出不可能だ。仕方がないから、スプーンをおかわりしてまたかき回し始めたんだけど、やっぱり落としちゃった。

悲しくなってカフェをでたら、明らかに超能力者の女の子が立っている。

唐突に「バレてんだからね。第6感で」だって。
やばいって思ってフードの中にある2本のスプーンを彼女に渡したら「1本はあんたが曲げなさい」って言われた。
ボクはいやいやを装いつつ、彼女のスプーンをぐにゃりと曲げたんだ。そしたら彼女は負けじとボクのスプーンをフォークに変えた。
そうか、総てはつながっているんだ。

一つの問いは無数の答えに、
眩しい朝は冷たい夜に、
そしてボクは彼女につながっているんだ。

ねえ、今度、結婚しない?

そりゃそうだ。総てはつながっているんだから。

posted by なりっと at 01:38| 東京 ☁| Comment(10) | TrackBack(2) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月13日

重要なこと

絶対的なロジックなどない。

無限より僅かに少ないだけある選択肢の決定条件の中から、感情を100パーセント排除するのは不可能だ。

なぜなら、選択肢そのものを現出させるのは感情だからだ。
そう、人は考える葦なのだから。

しかし、我々は物事をロジカルに追求することを放棄してはならない。

真のアナログに肉薄すること(肉薄と言う時点で放棄していると言う指摘もあって然るべきだが、それについては機会を改めたい)こそデジタル化の終着であり、ロジックと言うものの最終的な解であり、そして物事の真理に確実に迫るたった一つの鍵なのだ。

この手に握りしめられたものとは、そうしたものなのだ。
posted by なりっと at 00:29| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

大切なこと

重要なのはロジックだとあなたは言うけれど、

ちがうと思う。

よおく思い出してみて。


ちがうちがう。

考えるんじゃなくて思い出すの。

どうしよもない危機と立ち向かうとき、あなたはなににしがみついていたの?

心の底から笑えたとき、あなたの底にはなにがあったの?

あなたが今握りしめているそれは、いざという時に役に立たないよ。

大切なものはこの手にある。
おぎゃあと生まれてきたときからこの手にある。
posted by なりっと at 00:23| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月26日

キャンプをひねる

寝ては醒め醒めては眠り気がかりはあすの天気さと雨の男
(九里なのし)



雨女変わらぬ予報何遍見てもおんなじさ晴れにならない曇りのち晴れ
(九里なのし)



贈りたい物より記憶だって君はおてんとさんにきっと好かれてる
(九里なのし)



前にも言いましたが、猛烈に雨男です。
今年で15年やってる恒例のキャンプですが、全く雨に降られなかった記憶ってありません。

さらに、タチの悪いことにツマも雨女です。結婚前は雨の中のデートが多かったです。

でも、yuuが生まれるとちょっと様子が変わりました。
行くとこ行くとこ晴れまくります。ビバ晴男(水野監督じゃないよ)

去年のキャンプはしとしと1日中降ってました。雨夫婦の貫禄勝ち。
今年は昼間ピーカン(昭和のにほい)でyuuの勝ちかと思いましたが、昼寝の時間になると見事に降りました。そりゃあもう馬鹿みたいな夕立。

雷様おおはしゃぎ。

この話がネタじゃない自分にびっくりです。

シュラスコはチリメンジャコじゃあない野趣あふるる牛肉料理
(九里なのし)



雨の中肉をこそげりむさぼるのアウトドアって愛に似てない?
(九里なのし)




土砂降りの雨の中、昨夜から下拵えしてある、シュラスコを焼き始めます。
途中、チリメンジャコやらフラスコやらと、ちっとも料理名を覚えられない参加者にツッコミを入れつつ、焦げないように炭火で焼いていきます。
表面が焼けたら、ナイフで薄くそぐように切り、参加者の口に放り込んでいきます。もちろんボクも食べます。ビールがウマー。
切ったところにまた塩と胡椒を振り、また焼きます。
簡単で派手で旨い料理でした。オススメです。

食い合わせ?悪くて悪い?ももといなりともずくとばかと
(九里なのし)



四国にさ出張なんだ雨男ダムの中心で雨と叫ぶね
(九里なのし)



宴が終わる頃には雨も上がり、お次は風呂です。ここのキャンプ場は温泉場の近くにあり、野天風呂があります。

男4人で貸し切りでした。貸し切りと言っても、たたみ4畳くらいの湯船なのでちょーど良い感じでした。
さっきの雨のせいか、湯加減はぬるかったですけど。
親友Aに舌打ちされてこう言われました。

「お前、ちょっと四国行ってこいよ」

貸し切り状態は長く続き、よいよ童心が押さえられなくなっていきます。
まず、流れるプールを創りました。

ぐるぐるぐるぐる・・・・

気が付くと、親友TUが鎖に足を引っかけて風呂の栓を抜いていました。
親友Aが踵で排水口をふさいで、皆で必死になって栓を探しました。
いい歳したおっさん4人がなにをやっているのでしょう。

無事、栓も見つかり(水位が10センチくらい下がりましたが)、今度はシンクロです。
両足を高く上げるもんですから、勢い余っていろいろな食材が湯船から顔を出します。

いい歳したおっさん4人がなにをやっているのでしょう。

自然より人工がいいものもある閃光とかねって雨男
(九里なのし)




湯上がりにみんなで少しだけ花火をしました。
線香花火をやる時のあの感覚ってなんでしょうね。
切ないような、儚いような。
「いいの。あの人とのことはひと夏の出来事なの。膨らんで、弾けて、もう落ちたの」
ってゆー気持ちに条件反射的になってしまいますよね。(あの人って誰さ)

まあ、そんな感じのキャンプでした。

ぐずぐずねあなたはいつもあれもこれもそうよ今だってはやくイってよ
(九里なのし)



_
タグ:ドヘタンカ
posted by なりっと at 01:24| 東京 ☔| Comment(10) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月16日

塩気のない枝豆とぬるい麦酒とわらう犬

あさ。

いつも通り太陽にぼくは起こされる。

温度計を見る。
ぼくの日課。

まあ、そんなたいしたものでもないけど。
だって、大抵の人はやってるから。
起きて顔を洗うことを日課とは言わないでしょう?

今の気温は70度ちょうど。うん、今日は結構涼しいな。

天気がいいからビールでも持って散歩しよう。

顔を洗って歯を磨いて着替えをして、おっと、羽織るものいるな。
スニーカー履いて玄関を出たら、ぷしゅっ。太陽にかんぱい。

ビールがぬるいや。慣れたけど。

隣の畑にが生えてた枝豆をむしって食べた。うん。うまい。
塩が欲しかったけど、意外といける。

向こうでかき氷の出店が出てる。
氷と言ってもドライアイスだけど。
僕がブルーハワイを頼んだらおじさんががりがりやってくれた。

ガリガリモクモク
ガリガリモクモク

へい、おまち。

青いシロップがぼこぼこいってるかき氷をハフハフ食べた。煙でどうも食べにくい。
でも、なにがイヤだって、語呂が悪いこと。かきドライアイスじゃ、言いにくいったらない。

あの犬は今日も舌を出してへっへっへっって笑ってた。

タグ:大人の童話
posted by なりっと at 23:15| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月12日

無意味の意味

私は来週に撤去されるらしい。

其の娘は私が好きだったのだろうと思う。
娘は日がな一日私と戯れていた。
酷い時など私に乗ったまま昼食を済ますことさえ在った。

娘は私を高く、高く漕いだ。其れこそ一回転してしまうのではないかと、周囲の者が肝を冷やす程高く漕いだ。高く漕がれると私の視界は大きく拓けた。私は拓かれた視界に色々な者を捕らえた。
人、木、噴水、鳥、雲、空、山、銭湯の煙突。
アドバルーンなる物も其の中に含まれていた様に思う。
高く漕ぎ上げられる喜びを知った私は、何時しか誰よりも高く、長く漕ぐ其の娘が来るのを心待ちにする様になった。

娘は私を漕ぐ時によくこんな唄を口ずさんだ。

そんな幸福な日々も季節は巡るらしく、私の頭上にまで枝を伸ばす桜が幾度か花弁を散らすと、娘は人並みに大きく成り、私も其れなりに古ぼけて行った。しかし娘は私の元を訪れ続けた。以前の様に一日中という訳ではなかったが、毎日の様に私を漕ぎ、そしてあの童歌を口ずさんだ。
ある晩、娘がふいに顔を出した。
先程あがった雨で娘の目は湿っていたが、不思議と長い髪などは濡れていなかった。
娘が未だ乾いていない私に腰を降ろすものだから私はやきもきしたが、娘が私を高く漕ぎ、震える声で童歌を唄うと、そんな事はもうどうでも良くなった。
娘が高く漕ぐことで私は生き、娘が唄うことで私は其の意味を見い出した。

娘は又大きく成り、私の元に訪れたと思うと其のまま素通りする日々が続いた。
私は其れで良いと考えた。娘は去り、又別の娘が現れる。そして又幸福な日々が訪れる。

進んで戻って又進む。

私と同じだ。
其れで良い。

しかし娘は又私の元に現れた。
娘が私に腰掛ける。私の幸福は又戻って来たのだ。
しかし娘は私を漕ごうとはしなかった。
娘は右手を耳に当てて怒鳴っている。
私は童歌を唄って欲しくて何度も念じた。

やがて娘は喚くのを止め、私を漕ぎ、何時かの様に震える声で唄った。

其れを最後に、娘は私を漕ぐことはなかった。
あれは娘の別れの挨拶だったのだろうか。
私を漕ぐ者は殆どいなくなった。

夜中に成ると若者達が腰掛けるが、彼等は皆漕がないし、唄わない。
例え唄ったとしても、あの煙臭い息では私の幸福は訪れないだろう。

漕がれない私と唄わない彼等。

其の二者に何の意味が在るのだろう。
無意味な者が存在する意味とは何だろう。
やはり其れも無意味なのだろうか。
無意味が無意味を生み出し、やがて世界は無意味に覆い尽くされてしまうのだろうか。

隣の同僚が事故を起こした。
子ども三人が一度に同僚に乗り、止め金が外れたのだ。

乗っていた子どもの一人が怪我をした。
片方の止め金だけでだらしなくぶら下がっている同僚は、何も言わず唯ぶら下がっていた。

翌日私と同僚の周りには黄と黒のロープが張り巡らされた。

来週私たちは撤去されるらしい。

本来なら、悲しみや恐怖を感じる処かも知れないが、別段思う事はなかった。
同僚もそう思っているらしかった。

唯一つ。
唯一つだけ望むなら、もう一度あの娘に私を漕い欲しかった。
あの童歌を聞きたかった。
無意味な願いだ。
娘の姿が消えてから時間が余りにも経ち過ぎている。
娘はもういない。
第一、此の無意味な私が望むなら、其の思いも又無意味だ。
無意味を量産して此の世の意味が亡くなる時を早めるだけだ。

望みも願いも存在も。意味などない。此の思考さえも無だ。

好く晴れた日。
桜の蕾が其の膨らみを大きくしていたが、私はもう、何も考えなくなっていた。

もうすぐ私は完全な無となる。

「ひとこぎぶたさんこぎこいで」

「ひとこぎふたこぎさんこいで。よ。」

え?あの唄は。

「なんでひもがくっついてるの?」

「きっとなくなっちゃうのね」

「のりたーい」

「本当は駄目なんだけど」

「のりたいー」

「少しだけよ。さ、かあさんが押さえててあげる」

何時かの娘と相似形の少女は、母に支えられて私に腰を下ろす。

「かあさん、いっしょうたおう」

「いいよ。せーの」


ひとこぎふたこぎさんこいで
まだまだとおいおてんとさん

よこぎごこぎむつこいで
じきにまいろうおてんとさん

ななこぎやこぎきゅうこいで
おてんとさんはまっかっか

きいろいおつきさんとおこいで
おてんとさんはどこいった

うさぎにきいてもわからない
ふくろにきいてもわからない

かえろやかえろばんごはん

またあした


進んで戻ってまた戻る。

嗚呼。

嗚呼、そうか。

無意味なこの繰り返しの中に無意味をこじ開ける鍵があるんだ。

私の幸福は此処に在る。

其の先に在るものが、例え意味のないものだとしても。

posted by なりっと at 00:15| 東京 🌁| Comment(8) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月10日

FireWorksSimulation

シミュレーションなんてするんじゃなかった。

彼女が遅れた30分間、僕はじわじわと緊張していて、彼女の下駄の音でついに心臓の音が聞こえ始めた。

カランコロンカランって僕に走り寄って「ごめん」なんて言うから、周りには僕たちが付き合ってるみたいに見えるじゃないか。

それ、いい。全然いいよ。

学校で毎日見てる顔なのに、やっぱり今日は特別だ。
さっきまで、黒板の字を目を細めて見る横顔が一番好きだったけど、新記録更新だ。

浴衣が似合っていたからかな。
髪をアップにしてるからかな。

「着付けが難しくって」

「浴衣、着ないんじゃなかったの?」

「うん。でも、なんとなく」

こういうときは褒めなきゃ。ええと「かわいいよ」かな。
それとも「よく似合ってるよ」かな。
でも、僕がいきなりそんなこと言ったらきっと気味悪がられるから「結構いいじゃん」って言ったんだ。

でも彼女ときたら「え?何?」だって。
そりゃ確かにいつもの癖で声はちっちゃくなっちゃったけどさ。聞いててよ。

「なんでもない」

あー、緊張してきた。そう言えば僕は自転車に跨ったままだった。カッコわりい。
でも彼女はそんなことは気にもせずに自転車の後ろに乗ろうとこちらに近づいてくる。
僕の自転車の後ろは、ちょっと高くて彼女は乗りにくそうにしてたけど、僕は僕でこれ以上近づくと彼女に心臓の鼓動がばれそうだったから、ただ自転車が倒れないように馬鹿みたいに踏ん張ってたんだ。

「じゃあ、行くよ」

人ごみを縫って僕らは出発。本当は「しっかり捕まってて」って言いたかったんだけど。

でも、今はとにかく急がなきゃ。

商店街を抜けてコンビニの脇を抜けてタバコ屋の角を曲がって。
どんどん漕いでどんどん進め。
ライトなんて灯けてられない。ブレーキなんて握ってられない。
もっともっと早くもっともっと速く。
踏み切り越えておばちゃんチャリもゴボウ抜き。

この長くて急な坂を越えたら目的地まであとちょっと。よし。これなら間に合う。
でも、その時僕は立ち漕ぎできなくなったんだ。

だって。


彼女が僕の腰に捕まってきたから。



間に合いたいし、離されたくないよ。くっそ、がんばれ僕。



二人乗りで座ったままでこの坂登るなんて、僕も結構やるな。
高台の公園に着いて僕は自画自賛。きっと愛の力。今ならなんでもできるかも。
なんて、満足してる場合じゃない。ベストポイントへダッシュ。間に合うか。

乱暴に停めてガシャンと倒れた自転車を気にする彼女がじれったくって、僕は彼女の手を取った。
彼女の驚いた顔がちらっと見えたけど、どきどきなんてしてられない。まだ間に合う。

あの階段を登って、取って置きの言葉を彼女に言うんだ。僕が強く握ると彼女が握り返す。あと5段。

あれ?取って置きの言葉ってなんだっけ?彼女を待ってる間にあんなにシミュレーションしたのに。そのお陰で緊張しちゃったってのに。やっべ、なんだっけ?あと3段。

とにかく、息だけでも整えなきゃ。汗だくでぜいぜい言ってちゃ締まらない。

ふいに彼女を見た瞬間、彼女の顔を光が照らした。すごいきれいだと思った。そしてその少し後に大きな音。

ドーン

あーあ、間に合わなかった。

本当はこの一番最初の花火が上がる直前に取って置きの言葉を伝えて、二人で花火を観終ったら答えを聞こうと思ったのに。
だって、花火の最中じゃ僕の小さな声は彼女に届かないかもしれないし、終わってからじゃ静か過ぎてきっと言った後の間が持たない。

今回は失敗だ。また作戦練ろう。あ、また彼女の顔が光った。口あけてる。


「あのさ」


うん?なに?もう少しで着くんだけど。




「好きだよ!」




肝心なところは花火の音とカブったけど、彼女がめいっぱい声を張り上げたからちゃんと聴こえた。
というか、花火の音なんか全く聞こえなかった。

僕が彼女の言葉に反射的に答えた声は、自分でも思いがけず大きかったから、花火の音にはかき消されないで彼女の耳に届いたみたい。




花火の後、彼女は花火の音が鳴っている時に告白しようってシミュレーションしてたんだって、教えてくれた。

「だって一番最初の好きは、大きな声で言いたかったんだもん」

だってさ。照れるじゃんか。

posted by なりっと at 23:50| 東京 🌁| Comment(8) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月14日

ねがい

桜色の嵐は丘の下から桃色のとぐろを巻いて私のところまで吹き昇ってきた。

私はその渦巻きの中心で完全に身動きができなくなっていた。

目を閉じる。

その拍子にこぼれおちるものがあった気がするが、花弁の螺旋がすぐに絡め取ってしまったので、それがなにかを知らずにすんだ。

来年またここにこよう

その言葉を私はいつ聴いたのか。
声の主はとうの昔に土に還り、今はその記憶だけが深く、深く、目尻や手の甲の皺などよりも遙かに深く、大脳いや、恐らくはもっと原始的な脳に刻み込まれている。

もしかしたら、私という存在そのものに刻み込まれているのかもしれない。
さらにもしかしたら、その記憶こそが私で、私が私だと思っていたそのほかのもの全てが私の付属品なのかもしれない。

それならば納得がいく。

この、動かなくなった身体も、感じなくなった心にも。
外れてどこかにいってしまったのだろう。付属品なのだから。

「風が出てきたね。さ、帰ろう」

男はそう言って私の車椅子を押す。

この男もそうだろうか。

私という存在に何時のまにか付属している。
この男の笑い顔はあの人のそれに似ていた。
でも近頃男はすっかり笑わなくなった。
代わりにこちらの胸が詰まるような、そんな笑みを湛えるようになった。

この男の笑いも笑みもあの人の笑い顔も、きっと付属しているだけなのだろう。

外れるくらいなら、初めから付いていなくともいい。

世の中の全ての付属品が外されて私だけになればいい。

唯、そんな風になればいい。

posted by なりっと at 00:26| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月12日

拝啓エキサイトブログ様

突然のお手紙をお許し下さい。

始めてあなたに出会ったのはruruさんとこのリンクからでした。

ここであぶさんを知り、がいーんとやられました。
ぐいぐい引き込まれるその内容に、夢中で過去の記事を読み進めました。
彼女のブログはコメント欄も重厚でした。
その中で私は暗い寝室で不在着信を報せる携帯電話のランプのような、そんなコメントを残す人を見つけます。
iceさんでした。私はだんだんこの人のコメントが気になってゆきます。
そして、ついにその人のコメントのリンクをクリックしました。
扉の向こうには、文字通り言葉が踊っていました。飛んで跳ねて寝っころがって。背中を向けてじっとして。きおつけをしてはにかんで。

「こんなにすごい文章を書くブログに2つもであっちゃった」

ボクはますますブログにのめり込んで行きます。
そしてまたコメント欄からただならぬ雰囲気を醸し出しているクレマムさん毛布さんシヴァさんに出会いました。倒れました。どのブログも内容はもちろん、コメント欄が異様に盛り上がっていました。そこで語られる内容で、もっとも盛り上がる話題の一つにトラボケがありました。
創作系の文章を皆で品評しあっているようでした。
そこでは、あれほどの作品を連発するiceさんがチャンピョンになれずに悔しがっているではないですか。こんな恐ろしい企画を立ち上げた人に興味を持ち、そしてその天才企画屋バントさんの力に驚くのはむしろ自然な流れだったと思います。この頃からあなたの周りにはなぜか才能が集まっている。と、半ば本気で思うようになっていました。

なんて面白そうな繋がりなんだろう。
私はだんだんその輪の中に入ってみたくなりました。
初めてコメントを残したのはやはりあぶさんでした。
この頃は初めましての連続で、新しい学校に転校してきたような心持ちでした。
そこには少しの不安もありました。
なぜなら私の目には、あなたは少し人見知りをするように見えていたのです。

でも、そんな時に鰹さん毛布さんが私のおずおずと差し出す手を、そっと引いてくれました。私は彼らの優しさに引き上げられ安堵し、そして、あなたの心深さを知りました。

それからというもの、は日増しに増えていきます。

また、手紙を書きます。
かしこ


あなたに感謝します。

追伸
暑い日が続きます。私はどうも夏風邪を引いたみたいです。あなた様もどうぞご自愛なさって下さい。
posted by なりっと at 22:26| 東京 ☔| Comment(15) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月08日

構想7日・抗争?香草?

「まちやがれっ!」

「この泥棒猫が!」

大声を張り上げながら走る男達。その先にはブロンドの女が一人足音もなく駆けている。
捕まるのは時間の問題だった。まるで別の生き物のように揺れるブロンドのテールは、先程から喚き散らしながら迫ってくる男のすぐ先でたなびいている。

ジャジャッジャァッ

女は突如路地に逃げこんだが、視界が切り替わるとそれが間違った選択だったことに気づいた。

――行き止まり

女が呆然と立ち尽くしていると、程なく男達が追いついてくる。

「随分手間ぁ取らせてくれたな。俺たちのシマでナメたまねしやがってタダで済むと思ってんじゃねぇぞ」

男は3人。一見して下っ端とわかる真っ黒な髪の男と、グレーの短髪の男。あめりかという所で流行っていると、仲間に自慢していた。
怒号をあげたのは黒い男だったが、女はその後ろに控える茶髪の男に注意を集中させていた。
何も知らない者ならば、男の白髪が程よく混じったその容貌を、端正と評し喜ぶかも知れない。
しかし、男の瞳孔がすいっと、細くなる様を見れば、誰しも恐怖にかられ近づいたことを後悔するだろう。

そう、この女のように。

「これから先は事務所でやろうや」

黒い男がこちらに近づいてくる。

女に抗う術は残ってなかった。生きるためになにもかも捨ててきたこの女に残された物は、残飯あさりも喜んでやる生き延びる為に研ぎ澄まされた魂と、手入れされていない爪だけだった。

あの人は爪を研がなくていいと言っていた。我慢できずに爪を研いだ私を叱りすらした。その後で必ずあなたは私のことを愛撫してくれてこう言ってた。

「君はずっとこうしていればいい。爪など研がなくても僕がいる。ずっと」

あなたはどこまでも優しかった。

でも、

こんな爪じゃこいつらの顔に突き立てることもできないじゃない!


女の叫びは声にはならなかったが、答える者がいた。


その男が口を開く。


「ニャれニャれ。雌一匹に大の雄が三匹もよってたかって。恥ずかしくニャいのかい?」

「ニャに者ニャ!」

黒毛に白毛、いや、白毛に黒毛模様の男は誰何の声にも動じないどころか、薄笑いさえ浮かべている。

「ニャにがおかしい!」

「いやニャに、オレが少し留守にしてる間に随分と世間しニャずが増えたニャと思ってね」

「ニャんだと!?」

「ニャらずものにはニャらずものの流儀ってのがある。雌を大勢で追い回すなんざ、わんこ以下だニャ」

黒猫とアメリカンショートヘアーは耳を後ろ向きにして背中の毛を逆立てているが、白に黒ブチの猫はしっぽを太くしてもいない。

「ニャらずものの流儀ねえ」

それまで沈黙を守っていた茶虎の猫が発言すると、それまで喚き散らしていた子分2匹が口をつぐむ。あきらかに彼らは声ではなく他のなにかに戦慄していた。恐らくはあの瞳孔がナイフのように縮まるその気配に。

「みせてもらうか、ニャらずものの流儀ってやつを」

茶虎の猫の台詞が終わるのと同時に黒猫と外来種の猫がブチに踊りかかる。

ブチの目が怪しく瞬いた次の瞬間。

ミギャァー!フウゥ!フギャー!

!!!!!



そして。



ボロボロのブチがマタタビの葉を差し出しながら土下座していた。
「…ニャにとぞ、これで勘弁して下さい」

3匹は口々にブチを罵りながら去っていった。

「あの…」

「ケガはニャかったかニャ」

「はい、いやあの」

「それはニャにより。いえ、礼にニャ及びません」

「いやあの…」

「ニャあに、当然のことをしたまでのこと。しかし奴ニャネコキックまで使うとは。サスガの僕も少しだけピンチにニャりましたな。まあ少しだけですが」

ヒゲがあさっての方向に向いているブチはそう言うと、ばいニャらと、近くの塀づたいに去って行くかに見えたが、

途中で塀から落ちた。

一匹残されたミケはいつまでもその場で立ち尽くしていた。


出演:
ミケ ステファニー
黒猫 平吉
アメショー ランデル(本名則男)
茶虎 マイケル(雪の丞)
ブチ ミー


江戸時代より345年!伝統の味!右斜め45度清水一三六のおひまならきてよね.(カツオくんは永遠の小学生)-「雨降りだニャン。」へのトラックバックです。
posted by なりっと at 22:20| 東京 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月07日

ONE HAPPY DAY

今日は七夕だっていうのに、こんな曇り空で傘を持っていくかどうか悩んだ僕は駅に着いてから定期を忘れているのに気づいたけど、遅刻できない会議があるから520円払って切符を買って電車に飛び乗ったんだ。でも電車はぽかんとドアを開けたまま動かないんだ。ジンシンジコだって。やっと発車した電車はノロノロ進んではすぐ止まるんだ。こんどはテイシシンゴウだってさ。電車を降りたら会社までは徒歩5分。ダッシュで3分。雨が降ってたけど結局傘は持ってないし傘さしたら走れないから傘もささずに朝からダッシュ。会議にはきっと間に合う。ゼイゼイと会社についたら会議は午後に延期だって。午後の会議でこってり絞られて会社を出たのが11時10分。雨はざんざん降っていてやっぱり僕は駅までダッシュ。キオスクで傘を買って酒臭い電車に揺られて着いた駅では雨はやんでてそれはまあ電車で傘を忘れてきたからよかったんだけど僕はなんだかすっかり疲れてしまったんだ。

疲れて疲れてコンビニで買った缶ビールを道ばたでプシュっとやったんだ。


そしたら気が付いたんだ。




空を流れる天の川に。
posted by なりっと at 23:14| 東京 🌁| Comment(8) | TrackBack(0) | たまには昔の話を | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。